OD構造を有する新奇金属間化合物の構造安定性と力学特性

はじめに
 最近の研究によりMg-Zn-Y三 元系合金において,Mgマトリクス中に長周期積層構造(LPSO)構造を有する第二相(Mg-LPSO相)を微細分散させた合金が強度と延性に優れること が明らかにされたことから,次世代の超軽量構造材料の候補としてMg-遷移金属元素(TM)-希土類元素(RE)三 元系を基礎とする合金系が注目され,特に国内を中心に非常に精力的な研究が行われています.これら新規Mg-TM-RE系 合金が優れた力学特性を示す要因として,Mg-LPSO相の存在が関与していると考えられますが,現在までのところその詳細な役割については十分に解明さ れていません.これは主としてMg-LPSO相の形成機構,相安定性や力学特性といった様々な特性を理解するための基礎であるMg-LPSO相の結晶構造 が十分に理解されていないことに起因しており,その解明が熱望されている状況にあります.我々の研究室では走査透過電子顕微鏡法(STEM)と透過電子顕 微鏡法(TEM)を駆使して,Mg-TM-RE系LPSO相の結晶構造解析とその力学特性評価に関する基礎研究を行っています
Mg-Zn-Y LPSO
図1.Mg-Zn-Y系18R 型LPSO相の高分解能HAADF-STEM像(a)と制限視野電子回折図形(b,c). HAADF-STEM像では明点の位置が原子コラムの位置に対応.積層欠陥部の2層が周囲より明るいコントラスを有していることからこの2原子層にMgよ り重い元素,すなわちYとZnが濃縮していると考えられてきた.

Mg-Al -Gd系LPSO相の結晶構造解析
 我々は近年新しく発見されたMg-Al -Gd系LPSO相の高分解能HAADF-STEM観察により, (1) 従来18R,14H構造と呼称されていたLPSO相はそれぞれ6層,7層からなる構造ブロックで構成され,その構造ブロック中で希土類元素(Gd)が積層 欠陥部の2層ではなく4層に濃縮されていること,(2) 各構造ブロック内ではL12型構造と同様の原子配列をもつAl6Gd8ク ラスターが2次元的に長周期規則配列していること,(3)構造ブロックの積層には長周期の規則性がない,という特徴的な構造を有することを世界で初めて明 らかにしました [1,2].このような特徴的な積層構造はOrder-Disorder(OD)理論という結晶学的概念を用いて記述されるため,Mg-Al-Gd系 LPSO相は「LPSO相」ではなくOD構造を持つ金属間化合物相「OD金属間化合物相」として取扱うのが妥当であることがわかりました.(OD理論によ る結晶構造の記述に関しては以下の2つの文献[1,2]をご参照ください.)
[1] H. Yokobayashi et al., Acta Materialia, 59(19), 7287-7299 (2011).
[2] K. Kishida et al., Intermetallics, (2012) in press.
OD-STEM
図2.Mg-Al-Gd系18R型OD金属間化合物相の高分解能HAADF-STEM像
Atomic arrangement
図3.Mg -Al-Gd系OD金属間化合物相の構造ブロックを構成する6原子層それぞれの原子配列.青丸がGd原子,緑丸がAl原子,白丸がMg原子をあらわす.
Cluster arrangment
図4.Mg-Al-Gd 系OD金属間化合物相の構造ブロック内におけるAl6Gd8クラスターの規則配列構造.
Mg-Al-Gd OD phase stacking disorder
図5.Mg-Al-Gd 系OD金属間化合物相の構造ブロック積層.(b)では規則正しく積層しているのに対し,(a)では積層位置に長周期規則がないことがわかる.

Mg-Zn -Y系LPSO相とMg-Al-Gd系OD金属間化合物相の結晶構造の比較
 Mg-Al-Gd系OD金属間化合物相に関する結 果をもとに低Zn,Y組成のMg-Zn-Y合金中に形成 されるLPSO相においても同様の観察を行ったところ,Yの4重層濃縮とZn6Y8クラスターの形成を確認 しましたが,それらがブロック内で長周期規則を持たないところがMg -Al-Gd系OD金属間化合物相と大きく異なることが明らかとなりました.現在はMg-Al-RE系並びにMg-Zn-RE系のOD(LPSO)相の結 晶構造と相安定性の包括的な理解に向けた系統的な研究を行うとともに,これらの変形機構解明のための基礎研究に取り組んでいます.
Mg-Zn-Y HAADF2
図6.低Zn,Y組成の Mg-Zn-Y合金中に形成されるLPSO相の高分解能HAADF-STEM像.図中の四角で囲んだ領域にMg-Al- Gd系OD金属間化合物相と同様の配列が確認できる.また図中右に示すように構造ブロック中の中央の4層の強度が高い,すなわちY原子の濃縮が4層にわ たっていることがわかる.