JST 先端的低炭素化技術開発事業(ALCA)

「MoSi2基Brittle/Brittle複相単結晶超耐 熱材料の開発」
研究開発 課題の概要
高融点,高温強度に優れた遷移金属シリサイドを組み合わせた Brittle/Brittle複相材料 という全く新規な概念のもと,異相界面の原子構造,元素分配,界面元素偏析の制御からラビリンス組織やラメラー組織の 熱安定性の向上,高強度化,高靭性化を図り,Ni基超合金などDuctile相を含む旧来合金では達成できない燃焼温度1800℃級 ガスタービンでの使用に耐えるMoSi2基超耐熱高温材料の開発を目指します.

温室効果ガス削減へのシ ナリオ
地球温暖化防止の観点から温室効果ガスの排出削減が世界的に強く求められ ています. 国内で排出する二酸化炭素ガスの34%は火力発電所に由来することを考慮すれば,発電用タービンエンジンなど燃焼システムの 熱効率を1%向上させるだけでも,温室効果ガスの排出削減に対して非常に大きな効果が得られることは明白です. 燃焼システムの熱効率の向上には,燃焼温度,すなわち,タービン入口ガス温度を上昇させることが最も有効であり, その実現にはタービン動・静翼材として従来材料より高温強度に優れた新たな耐熱材料の創成が必須です. 現在,燃焼温度1700℃級のガスタービンの要素開発技術が国家プロジェクトとして推進されており,熱効率は従来の50%前後から 56~60%まで向上し,在来石炭火力をこの新型の天然ガス複合発電火力で代替すれば,発電所1箇所あたり0.4%,10~20箇所ならば 4~8%の二酸化炭素ガスの排出削減につながると試算されています(図1).さらなる二酸化炭素ガス排出削減には,将来的には, 燃焼温度1800℃級のガスタービンを目指すべきで,高温強度に優れた新たな耐熱材料の創成はその重要な要素開発技術の1つです.
ALCA1
図1.発電用ガスタービンの熱効率とタービン入口 温度の関係
(三菱重工技法, 44(2007)No.1).

ゲーム・チェンジング・テクノロジー~Brittle/Brittle複相 材料~

 発電用タービンエンジンのタービン動・静翼材として具備すべき特性とし て高温 (クリープ)強度,靭性,熱疲労特性,高サイクル疲労特性,耐酸化性,耐食性などがありますが,燃焼温度1800℃級ガスタービンでは, 高温(クリープ)強度, 靭性,耐酸化性が 最も基本的に重要な特性です.通常,高温(クリープ)強度と靭性を同時に付与するには,延・靭性に富んだ固溶体相と 高温強度に優れた金属間化合物相を組み合わせたDuctile/Brittle複相材料を考えます.事実,Ni基超合金はその典型例であり, 最も優れた耐熱材料の1つです.しかし,1800℃級ガスタービンでは,延・靭性に富んだ固溶体相を含めば高温強度が不十分と なってしまうので,旧来然としたDuctile/Brittle相の組み合わせではこれは達成することができません.使用温度の高さから 考えれば,固溶体相は除外すべきで,融点が高く,高温強度に 優れた金属間化合物相だけを組み合わせたBrittle/Brittle複相材料にこそ,この課題を解決するためのブレークスルーがありま す.

新規な概念の基軸材料としての MoSi2

 Brittle/Brittle複相材料の主相(基軸材料)として MoSi2に着目しています(図2). MoSi2は2000℃を超える融点を持ち,自己修復性のSiO2保護膜を形成するため耐酸化性には優れま すが, 通常の多結晶材料では延・靭性にやや乏しいという特性を有しています.しかし,これまでに我々の研究室で行ってきた研究の成果により, 単結晶材料では1000℃を超える高温でしか変形しない方位もあれば,室温でも転位運動により変形が可能となる方位もあること, また脆さはセラミックスほど極端に低いわけではないことを明らかにしてきました.MoSi2の上記のような特異な塑性異方性(転位 運動は起こるものの,方位によっては非常に強い結晶方位がある)を最大限に活用すべく,溶融凝固法により結晶方位制御した複相単結晶材料 として高強度化・高靭性化を図るとともに,温度,応力に対して安定な微細組織,異相界面の作り込みにより更なる高強度化・高靭性化の達 成を目指します.
MoSi2
図2.MoSi2の結晶構造と 高温耐熱材料としてのポテンシャル.
CRSS
図4.MoSi2の種々のすべり 系のCRSSの温度依存性.
(K. Ito, H. Inui et al., Phil. Mag. A, 72(1995) 1075).
labyrinth
図5.MoSi2/Mo5Si32 相ラビリンス共晶合金の微細構造.
MoSi2母相中にMo5Si3が析出し,迷路(ラビリンス)状の組織を形成してい る.

研究体制

 本研究開発は,京都大学の乾グループを中心として,第一期(2011年 3月1日から2016年3月31日)では 大阪大学の萩原グループ,東北大学の小泉グループ,京都大学の弓削グループの4つの研究グループが,第二期(実用技術化プロジェクト:2015年10月1 日から 2020年3月31日)においては東北大学グループ,福田金属箔粉工業グループ,コイワイグループの4つの研究グループが有機的に連携し, 多様な実験・計算手法を最大限に駆使して実施されます(図6,7).得られた研究成果は本Webページにて順次公開予定です.

Research
図6.研究開発体制(2011.3研究開発開始時).
Research groop new
図7.研究開発体制(2016.4第2期実用技術化プロ ジェクト移行後).

お問い合わせ先

〒606-8501
京都市左京区吉田本町
京都大学大学院工学研究科材料工学専攻
結晶物性工学分野 (乾 研究室)
TEL: 075-753-5461 FAX:075-753-5461
[研究室は京都大学吉田キャンパス本部構内 工学部物理系校舎南棟6階にあります.]